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第3回 「シンプルウォッチ」

手巻モデル


 はるか昔、人は季節の移り変わりや天体の運行など自然のリズムから時間の流れをしり、時計を作り出した。紀元前2000年頃にはバビロニアで日時計が使われていたといわれている。その後、水、砂、線香などさまざまな素材を用いて時計が作られてきた。ちなみに日本では671年4月25日に天智天皇が漏刻(水時計)で時を測り鐘や太鼓を打って時を知らせることを始めたと日本書記に記録されている。これを始めた旧暦4月25日が現在の太陽暦6月10日で「時の記念日」の由来となった。だが、これらの発明された時計はいずれも何らかの欠点を持っていた。日時計は曇りの日や夜は時間がわからない。水時計は水が蒸発したり凍ってしまう場合もある。砂時計は限られた時間しか測かれないし、線香を利用する火時計は風によって進み方が違う。そこで人は自然条件に左右されない機械式時計を発明していった。

 世界最初の機械式時計は、ヨーロッパ各地で13世紀から14世紀にかけて作られたといわれている。当時、教会や寺院の塔に設置されていた時計は重りが下がる力で歯車を回転させ、脱進機と呼ばれる機構が制御して、時間の経過を表していた。その後、15世紀から16世紀にはぜんまいが発明され、それを動力とすることで携帯が可能となり、懐中時計や腕時計が人々に伝わっていった。

 今日、手巻き時計の竜頭を巻き上げたり、時刻を合わせるために竜頭を引き出して回す時、これにまつわる400年以上の長い歴史を思い起こすことはまずないであろう。参考までに竜頭とは、中国の風水では竜はエネルギーを巻き起こすものというところからこのような呼称になったといわれる。しかしこの長い歴史の間に、携帯時計にとって計り知れぬほど重要な変化が起きたのである。それはぜんまいの巻き上げと針回しのため小さな鍵を用いる方式から、同じことを竜頭を用いて行う方式への変化である。近代的な竜頭巻き上げの開発と技術的な完成がなかったら、20世紀における腕時計の発展は決してあり得なかったであろう。17世紀における、小型の鍵でぜんまいを巻き上げる懐中時計の登場以来、鍵巻き方式に代わる実用的でより確実な方式を目指して、多くの発明が行われてきた。



 1841年、のちにパテック フィリップのメンバーとして加わるジャン・アドリアン・フィリップが竜頭を使ってぜんまいを巻き上げる鍵なし時計を発明し、1845年に最初の特許を得た。1851年、ロンドンで最初の万国博覧会が開催され、パテック フィリップが出品した竜頭巻き上げ式の時計はヴィクトリア女王をはじめとする世界各国の指導的地位にある人々から高い評価を与えられた。竜頭でぜんまいを巻き上げるこの原理は、現在でもすべての手巻き式時計に採用されている。

 20世紀に入ってからもパテック フィリップの技術革新への意欲は衰えず、いろいろなムーブメントが製作されてきた。現在、手巻き時計に採用されているムーブメントの一つ Cal.177 は、1960年代に創作され、厚さ1.77mmとパテック フィリップのコレクション中最も薄型のムーブメントの一つである。部品総数は112個で、搭載しているモデルはカラトラバ Ref.3520D のみである。また、もう一つのムーブメント Cal.215 は、1970年代終わりに創作され、愛好家・コレクターの絶大なる評価を得てきた。厚さ2.55mmで、130個の部品に施された微細で念入りな手仕上げと装飾が、機械式時計製作におけるパテック フィリップの160年以上の輝かしい歴史と伝統を誇り高く体現している。この Cal.215 を搭載したシンプルウォッチ・モデルは、カラトラバ Ref.5115Ref.5119Ref.5196Ref.4959 、ゴンドーロ Ref.5099Ref.5109Ref.5111Ref.5112Ref.5489 があげられる。

 機械式時計の進化に関してパテック フィリップの担ってきた役割は非常に大きい。古い格言に“進歩をやめたところから退歩が始まる”というのがある。パテック フィリップの歴史は、時計製作の限界を破る幾多の技術革新の歴史といっても過言ではなかろう。
文責 K.Ito

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