コラム

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第1回 「超複雑時計の機能」

第1回 「超複雑時計の機能」

天文時計

 天文時計そのものの歴史は非常に古く、14世紀頃にはその製作が始まっている。
 その中でも著名なのが現在世界遺産に指定されている「プラハ歴史地区」の旧市庁舎に設置された天文時計だ。設計、製作はカレル大学の天文学・数学の教授だったハヌシュの手によるものである。この時計の特筆すべき点は天動説の時代に製作されたため、中心に不動の存在として地球を据え、その周りを月や太陽その他の惑星が回る仕組みになっていることだ。なお当時は天動説に基づいて、紀元前2世紀にプレトマイオスが定めたトレミーの48星座が標準とされていた。
 14世紀に大航海時代が始まりヨーロッパの人々の活動の拠点が広がると、プレトマイオスの観測できなかった南天の星空にも次々と新しい星座が発見され、天動説の信憑性が問われるようになる。1543年、カトリックの司祭であったコペルニクスにより地動説が提唱されると、天体に関する認識も改まり、天文時計上の地球と月や太陽、惑星の有り方も様変わりをした。
 今日、我々が通常の時刻として認識しているのは18世紀末頃に考案された平均太陽時と呼ばれる時間である。これは楕円を描いて回転する不安定な地球の軌道を完全な円形であると仮定し、1平均太陽時を24分割した物である。理論としての平均太陽時の実現を可能にしたのは、時間を正確に計測、分割できる高精度の機械式時計の出現であった。
 パテック フィリップでは1927年、今宵の星空を掌中で眺める、そんなロマンに溢れる懐中時計を製作した。アメリカの自動車王、ジェイムズ・ウォード・パッカード氏の依頼により製作、販売されたこの時計は、パテック フィリップの最初の天空星座図付きの懐中時計である。裏蓋を開けると彼の生家の在る米国オハイオ州ウォレンの夜空が現れる。

Ref. 6104

 パテック フィリップではこの後もパノラマ上に広がる星空を再現した天文時計を製作した。そして2001年には12の機能を搭載したダブルフェイスのスカイムーントゥールビヨンRef.5002を発表、天文時計の機構を腕時計に組み込むことに成功した。
 ダブルフェイスの表側は永久カレンダー付きの平均太陽時の時刻表示を行い、裏側の文字盤は北半球の星座標が回転し、星、月の動き、シリウス星と月の子午線通過時刻、ムーンフェイズが表示される。さらに中央の長短針は恒星時を示す。星座表上には楕円が描かれ、ある地点での見かけ上の空を再現する。なお星空の座標調整はシリウスを起点として行う。天空で一際明るい輝きを放つシリウスはギリシア語で「火花を散らす」と言う意味で、日本では「青星」、中国では「天狼星」と呼ばれる。冬の大三角形の一座を占め、その明るさから有史以来天体観測の重要な指標とされてきた。
 座標を合わせれば世界の各国、そして日本の空に広がる天の川をも再現することができるのである。
 2010年発表の Ref.6104 セレスティアルはスカイムーントゥールビヨンの天文時計機能と、通常の平均太陽時を示す針を一つの文字盤に集約させた。この腕時計はシンプルウォッチとして使用しながら、天文時計のロマンを存分に堪能できる。
 より正確な星空を再現する為に、使用されているディスクはバックのブルーディスクで279、その上のサファイヤディスクでは356もの歯を持つ歯車からなっている。パテック フィリップではこの複雑な歯車の輪列減速比の組み合わせ25兆以上をコンピューターによりシュミレートし、最高の組み合わせを実現させた。通常の時刻、太陰日、恒星日、月齢の周期の誤差は極々僅かなものとなり、太陰日を例に挙げると1日あたり0.05秒、一世紀でもその誤差は僅か30分38.5秒にすぎない。
 美しい星空の下で、ムーブメントは静かにはるか天空の暦を刻み続けているのである。

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PATEK PHILIPPE GENEVE

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