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中世ヨーロッパにおいて時計を所有することは、貴族や王侯などの特権階級にだけ許される非常に瀟洒な趣味とされた。冨の象徴であった機械式時計は、その正確さを追求される一方で、より豪華な、より珍しいものを求める富裕層の力添えを得て、飛躍的な技術の進歩を遂げる。
ミニット・リピーターは18世紀頃、電灯も蛍光塗料も無い時代に暗闇で時を知るために考案された機能といわれる。時計本体のスライド式のレバーを動かすとゴングが鳴り、その音の組み合わせで現在時刻を伝える。ムーブメントにはゴングとハンマーが内蔵され、時計のケースはその音色を反響させる共鳴板の役割を担う。その製作は困難を極め、高い技術を持つ時計師たちによってごく少数の時計が生産された。その美しい音色、希少性からミニット・リピーターは実用品としてではなく、貴族の嗜好品として愛用されたのである。
パテック フィリップ社では1916年に、5分リピーターを搭載した婦人用の腕時計を発表している他、時計史上にその名を残すミニット・リピーターが極々少数ずつ作られてきた。なおパテック フィリップ社が自社ムーブメントを用いたミニット・リピーターを生産していた明確な記録が確認できるのは1925年から1942年までである。それ以降のモデルには独自に徹底的にブラッシュアップされたフレデリック・ピゲ社およびヴィクトラン・ピゲ社の基礎ムーブメントなどが採用されている。
その後パテック フィリップ社におけるミニット・リピーター製作の大きなターニング・ポイントとなったのは、創業150周年となる1989年である。この年パテック フィリップは自社製ミニット・リピーターのムーブメントを搭載したリストウォッチを発表した。パテック フィリップの途切れることのない技術・素材・音響の研究がここに結実したのである。
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音響面においてパテック フィリップのミニット・リピーターは2001年に更なる進化を遂げる。腕時計のミニット・リピーター音はケースの大きさに限りがあるため、その音色において懐中時計の後塵を拝する存在とされていた。パテック フィリップはカセドラル・ゴングの発明により、その常識を覆す美しい音色を実現することに成功する。
通常ミニット・リピーター内のゴングは時計ケースに沿って細く丸くカーブしたスチール製の線でできている。カセドラル・ゴングは豊かな音色を実現させるためにムーブメントの外周をほぼ2周する長さを有する作りとなっている。
このゴングは一端でムーブメントと固定され、美しい音色を実現させるために狭い空間の中で他のいかなる部品とも接することを許されず、ムーブメントという小宇宙の中に浮かんでいるのである。その実現には非常に高度で繊細な技術を要求される。
現在パテック フィリップのミニット・リピーター付き腕時計にはフライバック日付表示永久カレンダー付きの自動巻きRef.5013、手巻きムーブメントを用いてトゥールビヨンを組み込んだRef.3939H、永久カレンダー、トゥールビヨンを兼ね備える手巻きのRef.5016、カセドラル・ゴングを搭載した2001年発表のスカイムーン・トゥールビヨンRef.5002および2002年発表のRef.5074とRef.5078がある。
全てのパテック フィリップのミニット・リピーターは調整を終え完全な状態となった後に、静寂に包まれたフィリップ・スターン社長の部屋へと持ち込まれる。一つ一つの時計の音色をここでスターン社長自らが確認し、それぞれのオーナーのもとへと届けられるのである。
これらの貴重なタイムピースはいずれも受注生産という形でその販売は行われている。
文責 M. Morita

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